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第22回 坊っちゃん文学賞

【坊っちゃん文学賞特別対談】田丸雅智さん+白濱亜嵐さん「ありのままでぶつかってほしい」

ショートショート作家の田丸雅智さんとGENERATIONSの白濱亜嵐さんが、第22回坊っちゃん文学賞の審査員長とアンバサダーとしてオンラインで特別対談を行いました。松山市出身のお二人による和やかな対談。前半は、坊っちゃん文学賞への応募を考えている小学生に向けて、それぞれの幼少期の経験や創作活動への向き合い方についてトーク。後半は、第21回坊っちゃん文学賞受賞作6作品の感想について語り合いました。

第20回坊っちゃん文学賞表彰式

事務局:今年度もよろしくお願いします!  今回から、坊っちゃん文学賞では「小学生特別賞」を設けています。これをきっかけに小学生で坊っちゃん文学賞に挑戦するぞ! と思っていただいている方もたくさんいらっしゃるかなと思います。そこで本日、お二人にはご自身が小学生の時に挑戦したことなどをお話しいただければと思います。

白濱:僕、ありますね。

田丸:お願いします。

白濱:まさに松山でのお話なんですけど、「松山市民ミュージカル」って田丸さんもご存知ですよね。小学5年生の年末ぐらいに、当時クラスメイトだった子に「来年、ミュージカルがあるからオーディションを受けてみたら」って勧められたんです。で、実は僕、その子のことが好きで(笑)。 初めてオーディションを受けて、無事に選ばれてタツノオトシゴ役でステージに立ちました。タツノオトシゴのコスチュームを着て踊っていましたね。

田丸:かわいいですね。その姿、観てみたい(笑)。亜嵐さんは小学生で初めてのオーディションに挑戦した時、怖さや不安はなかったですか?

白濱:恐怖感とかはあまり感じないタイプだったかもしれないですね。ただ、やっぱり緊張はしていて、演技審査では、ものすごく早口になってしまって……演出家の方に「すごく早口だね」って言われたのを覚えています(笑)。そのときに自分は緊張すると早口になると初めて自覚した(笑)。

田丸:(笑)。そのときのことを思い返して、挑戦してよかったと思いますか?

白濱:よかったです。そのミュージカルでは約一ヶ月間、80人ほどのメンバーでずっと一緒に稽古をしていたんです。すごく濃厚な時間で、本番が終わったときには、自然と涙が出てきましたね。初めてでした、楽しかったことに対しての涙は。ずっとスポーツをやっていたので、悔し涙を流したことはたくさんあったんですけど、達成感で泣くのは初めて。すごく驚きました。

田丸:尊い涙ですねぇ……。

白濱:もしかしたら、その経験が今に生きているかもしれないですね。あのとき人前に立つ楽しさを知ったから、いまこういう仕事をしているという。

田丸:なるほど。正直なところ、亜嵐さんが羨ましいです。僕なんて、小学生のときに能動的に挑戦したことがあまり思い当たらなくて……一応、ピアノや水泳、書道といった習い事はしていんたんですけど、自分から進んでというよりは、周りに決めてもらってやっていたことが多くて。あと、そういう話で言うと小学校の俳句の授業。誤解を恐れずに言うと、当時は「やらされている」という感覚もあって。

白濱:めっちゃわかります(笑)。「やらされる」んですよね(笑)。

田丸:ですよね(笑)。 でも、いまから考えると、そういう経験をさせてもらえて本当によかったなと心から思っていて、すごく感謝しています。たとえば、今の自分の言葉のリズムを作ってくれたのは間違いなく俳句ですし、物事の多様な見方、感じ方を教えてくれたひとつも俳句だと思っています。それでいうと、ピアノや水泳や書道も、亜嵐さんのような挑戦とは少し違うかもしれないですけど、親や先生に勧めてもらってとりあえずやってみたことが、回り回って今に生きている。これはもう日々感じていることで。

白濱:たしかに。

田丸:だから、今回の坊っちゃん文学賞の小学生特別賞でも、自発的にご応募いただく方だけではなくて、たとえば、学校で授業があったから書いたとか、親が言うからよくわからんけど書きました、みたいな方も当然いると思うんですけど、僕は、それでも全然いいと思っているんです。

白濱:その通りですよね。

田丸:そして、そういう方の中には、何を書いたらいいかわからない、とか、自分は特別な経験をしていないからショートショートなんて書けない、と思う方もきっといることでしょう。でも、そんなことはないんです。ヒントは日常の中にたくさん転がっているものですし、そもそも、あなたの経験しているすべてが特別だとお伝えしたい。僕で言うと、松山の石手川でフナを獲ったり、笹舟を流したり、トンボを捕まえたり……当時の自分にとってはなんでもない日常だったわけですが、今でも本当に輝いていますし、もっと言えば、僕はその経験を今、作品に閉じ込めているという感じです。

白濱:小学校6年間の経験には、お金では買えない貴重さがありますよね。僕は友達と自転車で校区外の川に泳ぎに行ったりした記憶があります。なんでもないことのはずなのに、校区外に出るドキドキ感やゾクゾク感は今思い出してもたまらない(笑)。百円玉を握りしめた小さな大冒険(笑)。

田丸:わかります(笑)。本当にただ生きているだけの、むき出しの命というか。

白濱:言葉に表せないぐらい青いというか。汗まみれになっても気にせずに、ただただ生きていた。その時の感覚を全人類が思い出したら平和になるんじゃないかなって思います。だから、小学生で坊っちゃん文学賞に応募してくれる子達も、もうただ思いのままに書いてもらえれば十分ですよね。もちろん、考えて書くことも大切ですけど、自分で物語を書くっていうのはそれだけでいい経験だと思います。

田丸: 本当におっしゃる通りです。感想文や作文が苦手な子もたくさんいますが、感じるままに、衝動のままに発散して書くことはすごく大切にしてほしいですね。ちなみに、それは大人になった僕自身も意識していることです。思ったこと、特に好きなものとかいいなと思ったものは変に照れたりせずに真正面からストレートに伝える。それくらいピュアに戻りたいという思いが年々強くなっていますね。

白濱:そうですね。それに、小学生って好きなことや興味あることが本当にたくさんあるじゃないですか。その好きや好奇心を活かして、読ませてほしいですよね。

田丸:本当にそうですね。今持っているもので、ありのままでぶつかってほしいなと強く思いますね。小学生のみなさんも、もちろん大人の皆さんも。興味の移るままに、何作品でも書いて応募していただきたいです。

第16回坊っちゃん文学賞表彰式

事務局:ではここからは後半ということで、第20回坊っちゃん文学賞の受賞作品についてお二人から感想をいただきたいと思います。

「恩返し」髙山幸大(大賞) 

田丸:とにかく心に訴えかけてくる作品でした。最終審査にあたって読んでいた時も、途中から涙が込み上げてきて。審査をしていてここまで滂沱の涙を流した経験は初めてでした。登場人物と主人公のエピソードがとにかくすごくリアル。「老人と赤ちゃんの共通性」というのはよく論じられるテーマではあるけれど、そのディティールがとにかく素晴らしく、想像が行き届いている。そして、淡々とした文体で描かれているからこそ、よけいに胸に訴えかけるものがあるんだろうなと思います。

白濱:「老人と赤ちゃんの共通性」という点は、僕自身も学生時代に老人ホームを訪問した時に感じたことでした。日記が一つずつ消えていくという話や、登場人物と主人公の関係性がすぐには明かされない書き方に、色々と想像を膨らませながら読みました。物語が提示する関係性は、「生みの親、育ての親」という言葉を超えていましたね。

「描かなかった夕焼け」草間小鳥子(佳作) 

白濱:僕自身がクリエイターであることもあり、この作品にはとても共感しました。「頭の中にある作品を全部形にできたら」なんて休みの日に考えたりする瞬間は創作者なら誰にでもあると思います。その消化したくても消化できないようなもどかしさ、作者の方の中にある葛藤をうまく作品に活かしていると感じました。そういう葛藤や感覚という「自分にしかないもの」をうまく武器にできているのはすごく素晴らしいなと思います。

田丸:創作者はもちろんですし、やりたくてもできないということは、誰しも経験があるんじゃないかと思います。周りから置いていかれるんじゃないか、とか、もっと時間があれば、とか、どうしても思ってしまいますよね。それでも、人生にはそのやりたいことより大切なものもやっぱりあるよなぁと、改めて考えさせてくれた作品でした。

「トロッコ問題×問題」三上智広(佳作)

田丸:トロッコ問題のような思考実験系の二次創作作品には時折触れるのですが、この作品はなんといってもシチュエーションが抜群でした。擬人化も、それ自体はもちろん王道の手法ではあるのですが、トロッコ問題のトロッコを擬人化するという着眼点はシンプルながらやられたと思いました。この作品は、映像化が困難というか、文章であることの強みが生かされていて、活字ならではの魅力を存分に感じさせてもらえますね。

白濱:沢山の人が知っているトロッコ問題について、尋問というちょっとふざけた設定でありつつ、その文章はミステリー小説のようにシリアスで。状況の滑稽さが伝わってきて、僕は好きでしたね。お話が進むにつれて、つい自分も突っ込み始めたくなるような、楽しませてくれる内容でした。

「ニキビ戦線」角井まる(佳作)

白濱:一大スペクタクル映画を観ているような感覚でした(笑)。自分自身も肌荒れをした時なんかは、誰か体の中からやっつけてくれないかなっていつも思っていたので、そういう思いが作品になったみたいで、すごく楽しく読みましたね。絵本にしたり、映画にしても面白そうです。

田丸:本当にこの作品は映像的ですよね。自分の中に飛び込んじゃったり、スケール感や設定がいい意味であべこべで、どういうこと? ってなるんですけど、そこを勢いで押し切っている。展開に対していちいち細かい説明がないんですよね。この作品は振り切って大胆に描くことの大切さを教えてくれます。「こうです」という断言の強さと圧倒的な熱量で、よくわからないけど無茶苦茶魅せられて呆然として終わる。お見事な作品でした。

「一人と一台」床井瑞己(佳作)

田丸:もうやっぱり、「へい、吉田」っていう一行目ですよね。スマートスピーカーを描く作品もやはりしばしば見かけはするのですが、とにかく一行目が素晴らしかった。しかも、スマートスピーカーが話しかけてくる内容も実際のあるあるというか、細かいところまでよく描かれていて、終始ニヤニヤしてしまいました。ずっとユーモアが漂っていて、最後には心も温まるというところも好きでした。

白濱:スマートスピーカーって、これまで描かれている作品のなかでは結構近未来感のある存在だったと思うのですが、この作品ではかなり当たり前の存在として描かれていますよね。それで、その当たり前になった存在に逆に使われたり、助けられたり……あとはやっぱり一行目のつかみが良かったですね(笑)。

「マツザワケ」水絹望音(佳作)

白濱:これはもう、大好きな作品です(笑) 。ゲームの世界に入っちゃって、出たくない! っていう流れからのお話。ブラックユーモアも感じました。現実世界でも、人生イージーモードとか、ハードモードとかって表現がありますが、まさにそこを物語にした感じなのかなと思いました。とはいえ、人生ってゲームに置き換えたらめちゃくちゃ難しいゲームですよね。人生って超ハードモードだと改めて気付かされました。

田丸:夫が本当にダメ夫で、妻は呆れながらも付き合うという関係性が結構好きで。ダメさ加減にイラッとしながら放って置けない感じもする、関係性や人物の描き方がすごい作品だったなと思います。それから、この作品では展開がかなり大胆にカットされているんですよね。その分、スピード感が宿ってぐいぐい読まされる。そして辿り着くラスト一行がとにかく素晴らしい。このラスト一行は個人的に大好きでした。

事務局:それではそろそろお時間になりましたので、最後に、応募者の方に激励のメッセージをいただければと思います。

白濱:大人の方も小学生の方も、坊っちゃん文学賞への応募がきっかけで、人生が変わることがあるかもしれませんし、とはいえ別に何も起こらないことの方が多いでしょう。でも、自分で物語を書いたという経験が絶対、今後の人生にとってすごく面白い要素の一つになると思うんです。自分で物語を生み、書き、表現することの楽しさを、この賞を通じて感じてもらえるのが一番いいことではないでしょうか。こっちの世界に飛び込んでおいでよって感じでもないんです。ふらっと立ち寄るくらいの感覚で来てもらえたら、それで何か見えてくるものもあるでしょうし、見えなくとも、感じることはあると思います。ぜひ書いてみてください。

田丸:坊っちゃん文学賞をきっかけにプロを目指したいという方ももちろん大歓迎ですし、すごく嬉しいです。だけど、それだけではなくて。物語を書いたことがなかったり、なんなら興味すらなかったり……そんな人でも、一回ぜひ書いてみてほしいと思います。書くという行為は発散にもなりますし、書きながら思わぬ自分を発見できたり、実はこう感じていたんだと分かることもあります。自分と向き合える時間ですし、純粋に衝動のままにアイデアをお話にするというのもまた創作の面白さです。荒々しさや拙さが残っていても、それゆえに魅力的な作品もたくさんあります。文章がうまくないからダメとか、苦手だからダメとかは絶対になくて、あなただから書けるものがあるはずです。とにかく気軽に、何より楽しみながら挑戦してほしいなと思います。あなたもできるし、やっていい。そのことを、心からお伝えしたいですね。

事務局:ありがとうございました。

(2025.9.12  Zoomにて)

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