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第21回 坊っちゃん文学賞

【『夢三十夜』刊行記念】田丸雅智さん+白濱亜嵐さん特別対談「さらなる飛躍のきっかけに」【前編】

坊っちゃん文学賞発のショートショート集『夢三十夜』刊行を記念して、昨年に引き続き、田丸雅智氏(第18回坊っちゃん文学賞審査員長)と白濱亜嵐氏(第18回坊っちゃん文学賞アンバサダー)の対談をオンラインで行いました。故郷・松山市から大きく羽ばたいたお二人には、『夢三十夜』収録作品の感想やご自身の「プロデビュー」のエピソードについてお話しいただきました。対談の模様は、前後編に分けてお届けします。【前編】

*本対談は、Zoomを使用してオンラインで実施しています。

坊っちゃん文学賞事務局(以下 事務局):坊っちゃん文学賞受賞者のみなさんが参加する『夢三十夜』がついに発売となりました。

田丸:本当におめでたいですね。ショートショートというジャンルでの書籍化は、正直言ってまだまだ簡単なことではないんですけど、第15回のショートショート部門から数えて3回目を終えた段階で、こうして一冊の本を世に送り出せることを誇りに思います。受賞者のみなさんにはこれをきっかけに、どんどん羽ばたいていただき、次のステップである単著につなげていってほしいです。

白濱:あっという間に読み終わるほど面白かったです。僕が第16回の授賞式で直接お会いした方々の作品も収録されているので、なんだか親戚のように身近な人が本を出したような感覚で、自分も嬉しくなりましたし、素敵な作品を読んで、改めて坊っちゃん文学賞の意義を感じました。みなさんには、ここからさらに大きな夢を叶えていってほしいという気持ちでいっぱいです。

事務局:今回の出版によって、受賞者の方のほとんどが、小説家として「プロデビュー」したと言えます。はじめに、田丸さんと白濱さんのお二人が、それぞれのジャンルで「プロデビュー」「メジャーデビュー」したきっかけや、デビューにまつわるエピソードについてお話しください。

田丸:僕のプロデビューも、受賞者のみなさんと同じで、単著ではなくアンソロジーへの参加でした。デビュー作は、いまからちょうど10年前、2011年に出版された『物語のルミナリエ』(光文社)というショートショート集に掲載してもらった「桜」というタイトルの一作です。何十人もの作家さんのうちの一人という位置付けではあったんですけれど、発売後、実際に書店に並ぶ本を見つけ、表紙に自分の名前が連なっているのを目にした時は、ものすごく嬉しかったのを覚えています。気恥ずかしさもありましたが(笑)。

白濱:僕がアーティストとしてメジャーデビューしたのは、田丸さんとほぼ同時期の2012年です。その年の11月21日に初シングル「BRAVE IT OUT」をGENERATIONSとしてリリースしたのが、メジャーデビューの瞬間でした。

田丸:近いですね! デビューはどんなきっかけからだったんでしょうか?

白濱:高校生のときに松山から上京して、その後、劇団EXILEに入って舞台に出演していた頃に、三代目J SOUL BROTHERSの一つ下の世代でアーティストチームを作る構想が出てきて僕にも声をかけてもらったんです。だけど、GENERATIONSができたからすぐにデビューというわけではありませんでした。メンバーみんなで、バス一台で全国を回って、ショッピングモールや公園で踊るという武者修行を2回経てからでした。それも、ある日突然。HIROさんから会議室に呼ばれて、デビューしましょう、と告げられるという。

田丸:いきなりですか。その瞬間ってどんな感じでしたか?

白濱:今でもよく覚えています。HIROさんに、「無理なしでいいからね」って言われて。つまり、無理してやらなくてもいいけど、よかったらみなさんデビューしませんか、くらいのニュアンス(笑)。そのために頑張ってきたんですからって、僕たちはみんなで爆笑でした(笑)。

田丸:(笑)。

白濱:それで、「よっしゃっ!」って感じだったんですけど、もうその翌日から目まぐるしくスケジュールが動き出して……アーティスト写真を撮影したり、ヴォーカルはいきなりレコーディングが立て続いたり。突然、「プロ」としての仕事が怒涛のように押し寄せて来て、そこからしばらくはもうほとんど記憶がないくらいハードでしたね。シングルのリリースも3ヶ月に一回位のペースで決まっていたので、振り付けを自分たちで作って、ミュージックビデオも撮影して……と。

田丸:へー!

白濱:田丸さんの小説家デビューは、どんななりゆきだったんでしょうか?

田丸:小説家のデビューで一般的なのは、出版社が主催する文学賞を受賞して、担当の編集者がついて……という流れですけど、僕自身は、そういうオーソドックスなルートではありませんでした。そもそも当時は、ショートショートというジャンルで、プロデビューできる登竜門的な賞はなかったんです。だから僕は、好きな作家さんのセミナーに足を運んで思い切って話しかけてみたり、編集者の知り合いができれば作品を見せに行ったり、自分なりにプロへの道を模索していて、そのなかで、のちにデビュー作となったアンソロジーを手がけられている作家の井上雅彦さんと知り合うことになり、本当にありがたいことに一編寄稿させてもらえることになったという経緯でした。

白濱:自ら道を切り開いたわけですね。ジャンルは違えども、デビューまでの道のりが平坦ではないことは、作家さんもアーティストも同じですよね。

田丸:そうですね。そして、デビューしてからも……。

白濱:そうなんです! デビューしたからと言って、すべてが順調に展開していくわけでもないんですよね。茨の道は続く。

田丸:すごくよくわかります(笑)。

白濱:アーティストの場合、デビューした後、次の目標として見えてくるのは、アルバムのリリースや単独ライブツアーですけど、GENERATIONSが初めて単独ライブツアーができたのは、デビューからようやく3、4年後のことでした。それまではずっと、デビューしてもなお、先輩たちの後ろで踊っていて。なかなか大変でしたね。

田丸:とても親近感が湧くエピソードです。僕が経験したデビュー後の苦しかった道のりに似ています。僕は、単著が出るまでに2年くらいかかったんですけど、そのあいだはとにかく苦しんで……(笑)。当時は今と比べものにならないくらいショートショートが冷遇される時代だったので。

白濱:へえー。

田丸:アマの時代からそうでしたが、いざデビューした後も、編集者や作家の方と話をすると、口を揃えたように、「ショートショートは売れないから単著は難しいんだよね」と。だけど、僕は、そういう考え方を疑っていたし、ショートショートの可能性を強く信じてもいました。アプローチ次第で市場も開拓できるはずだと。だけど、なかなか勝負をさせてもらえなかった。悔しくて、苦しい時代でした。

白濱:だからやっぱり、デビューして即一人前というわけではなくて、デビューは、一人前になる過程というか、スタートラインでしかないなと思います。

田丸:本当にそうです。今回の対談は、「受賞者のみなさんデビューおめでとうございます!」と趣旨なので、あまり厳しいことばかり言ってもいけないのかもしれませんが(笑)。

白濱:(笑)。明るい話もしましょうか(笑)。僕たちの場合だと、デビューしてからしばらくは、先ほどお話ししたように大変でしたし、アーティストというよりも、良くも悪くもLDHの「商品」として、LDHが表現するエンターテイメントを体現していく存在になったという感覚でした。だけど、最近になってようやく、僕たち自身がやりたい音楽や着たい衣装、やりたいことをやらせてもらえるようになってきて……キャリアを重ねた結果、成長できているのかなって思えたりもして、とても楽しいですね。

田丸:小説も近いかもしれません。やっぱり編集長や編集部の意向はありますけど、キャリアを積んでくると変わってくるというのはありますね。

白濱:自由になってくる(笑)。

田丸:一方で、その自由には責任が伴いますよね。駄目だったら自分ですべて被る覚悟が必要で。元々そういうスタンスですが、より重みが増します。

白濱:めちゃくちゃよくわかります。そして、その分やりがいもある。これまで経験したある種の修行期間も、いまを形作るための大切な糧になっていると思えてきます。

事務局:今回の本で言うと、受賞者のみなさんにはある程度自由に書いていただいたんです。ただ、一つ、強くお願いしたオーダーは、「受賞作を超える作品」を目指してほしい、ということでした。

田丸:素晴らしいオーダーです(笑)。

白濱:単純で難しい(笑)。

事務局:もともとこの本は、坊っちゃん文学賞の受賞作品だけをまとめて出版しようと考えていたんです。だけど、田丸さんから、新作にこだわったほうがいい、というアドバイスをいただいて。それで改めて企画を練り直して、いまのかたちになりました。

白濱:そうだったんですか。

田丸:そこは本当に強くこだわりましたし、この企画のチャレンジングで特徴的なところだと思います。受賞作だけだと、記念碑的に終わってしまいます。受賞者の方々に今後大きく羽ばたいていただきたいと考えたときに、本が出るというまたとないチャンスを最大限に活かすためには、新作は欠かせないと考えたわけです。それにやっぱり、ショートショートの場合は一作が短いこともあって、受賞作一作だけでは出版社や編集者の方もなかなかその作者の力を判断しづらいという側面があるんですよね。だからこそ、2作目、3作目を世の中に出す機会を作らなければ、という使命感も勝手にあって(笑)。もちろん、僕たちとしても不安な部分はありましたが、こうして無事によい作品集ができたので、まずは安堵しています。

事務局:では、ここからは、その「新作」について、お二人にコメントをいただいていきたいと思います。新作は15作品とたくさんありますが、せっかくなのでそのすべてについて、掲載順にコメントをいただきたいと思います。

『ファミリーボックス』高野ユタ

田丸:センシティブな話題を優しさで絶妙に包み込んでくれる作品です。昔、僕の実家にも、富山の薬売り的な、自宅の常備薬を定期的に入れ替えてくれる人がきていたことを思い出しました。設定にリアリティを持たせるための具体例や口調の書き分けもうまかった。そして、高野さんはラスト一行が本当にお上手。「羽釜」もそうでしたが、素晴らしいセンスです。

白濱:この方の特徴は、僕のように想像力がそれほど豊かではない読者でも想像しやすい書き方をしてくださることだと思うんです。キャラも掴みやすいし、画もすんなり思い浮かびました。ほっこりする終わり方もすごく良かった。僕はああいう田舎っぽい、元ヤンっぽい親父が好きですね(笑)。

『見なかったことに』霜月透子

白濱:読者の捉え方によって、解釈が違ったりするのかなと思った作品です。すごく考えさせられました。裏山に洞窟があるという情景は、とてもワクワクする描写で楽しかったです。僕は田舎出身なので、なんだか幼い頃を思い出して、切ない気持ちにもなりましたし、感動もしました。ただ、こういう目薬があっても、僕はきっとささないです(笑)。

田丸:壮大な一作でした。洞窟や湧き水という題材は、聖なる要素、神秘的な要素をもともとはらんでいますが、そこに不思議な目薬が出てきて、心霊現象もあって、さらに彗星という壮大なモチーフもつながってきて……とアイデアの方向に一貫性があるので、全体として、より大きな感覚に向かっているようなスケール感があります。最後は、怖いし切ないんですけど、どこか美しさも感じられました。

『壺から聞いた話』草間小鳥子

白濱:壺を擬人化するという着眼点、発想力に驚かされました。比喩が素敵だったので、この方が作詞をしたらどんな言葉を書くんだろうなって想像させられました。作詞って比喩が大事なので。自分が作詞するときにも、この作品をヒントにしようと思います。

田丸:白濱さん、すごい。実際、草間さんは詩人でもあって、昨年、単著で詩集を出版されています。受賞作の「今夜だけスーパースター」も、ポジティブな曲を歌うバンジーラビットさんが魔界でコンサートを開くという、歌詞をうまくモチーフに使った作品でした。あと、このどっしりとした新作と現代的でポップな受賞作が書ける幅の広さもすごいです。

『砂嵐』小笠原柚子

白濱:子どもに是非読んで欲しい作品ですね。いま、テレビで砂嵐を見ることはほとんどないかもしれませんけど、きっとこの作品を読み終わった子どもは、家のテレビで砂嵐のチャンネルを探すだろうなって(笑)。それくらいワクワクさせてくれます。ロマンがありますね。もちろん大人も楽しめて、僕も今後、テレビで砂嵐を見かけたら、きっとこの作品を思い出すことでしょう。

田丸:白濱さんのおっしゃるとおり、現実をいい意味でハッキングしてくれる楽しい作品です。テレビは身近な存在なのでモチーフにされることも多いですけど、リサイクルショップという、僕が個人的にもそそられる場所から広がっていって、神秘性まで醸し出している。先行作品にテレビの砂嵐とラクダを掛け合わせたものはあるんですけど、また異なる料理の仕方になっていて、これも面白かったです。

事務局:ありがとうございます。

<【後編】はこちら>

(2021.7.2 Zoomにて)

田丸 雅智

1987年、愛媛県松山市生まれ。松山東高、東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。現代ショートショートの旗手として執筆活動に加え、坊っちゃん文学賞などにおいて審査員長を務める。また、全国各地で創作講座を開催するなど幅広く活動している。ショートショートの書き方講座の内容は、2020年度から小学4年生の国語教科書(教育出版)に採用。17年には400字作品の投稿サイト「ショートショートガーデン」を立ち上げ、さらなる普及に努めている。著書に『海色の壜』『おとぎカンパニー』など多数。メディア出演に情熱大陸、SWITCHインタビュー達人達など多数。
田丸雅智 公式サイト:http://masatomotamaru.com/

白濱 亜嵐

1993年8月4日生まれ、愛媛県松山市出身。2012年11月、GENERATIONS from EXILE TRIBE パフォーマーとしてメジャーデビュー。 2014年4月にEXILE新パフォーマーに決定し、EXILEに加入。GENERATIONSのリーダーも務め、EXILE/PKCZ®と兼任しながら活動している。また、俳優としての主な出演作にはドラマ「シュガーレス」、「GTO」、「小説王」、「M 愛すべき人がいて」、 映画「ひるなかの流星」、「コンフィデンスマンJP プリンセス編」、「10万分の1」などにも出演。4月24日より放送のテレビ朝日系列「泣くな研修医」では主演を務めており、さらにDJ(楽曲制作)としても活動し、昨年PKCZ®に加入するなどマルチに活動の場を拡げている。


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