坊っちゃん文学賞恒例! 審査員長・田丸雅智さんとアンバサダー・白濱亜嵐さんの対談を今年も実施しました。今回は、坊っちゃん文学賞が第20回を迎えたということで、前半では、ご自身の「アニバーサリー(周年)」にまつわるお話を語っていただいています【前半記事はこちらから】。
そして後半は、6月に発売された坊っちゃん文学賞の過去受賞者等による新作ショートショート集(電子書籍)のなかから作品をピックアップして感想を交わしていただきました。
☆新作ショートショート集(電子書籍):『カプセルストーリー』
*本対談は、Zoomを使用してオンラインで実施しています。
幅の広さがジャンルとしての醍醐味
田丸:
今回、電子書籍として出版されたこの作品集は、現代ショートショートの最前線を垣間見ていただけるクオリティに仕上がったなと思っています。田丸が監修していまして、坊っちゃん文学賞とかつて開催されていたショートショート大賞の受賞者の方々に新作をお願いしました。当初一人一作品くらいで考えていたんですけど、みなさんが素晴らしい創作意欲をみせてくださって二倍のボリュームに。だから、二巻組です。白濱:
めちゃくちゃ面白い作品が詰まっていますよね。奇天烈な作品も多いですしメッセージ性の強い作品も入っていて。バラエティに富んでいました。田丸:
嬉しいご感想です!白濱:
まずはどれについて話しましょうか……じゃあ「セミな〜る」というセミのお話から。命や生きることの意味について考えさせられる作品でしたね。ちょっとファンタジーなんですけどメッセージ性があって深い。すごく好きでした。田丸:
僕も蝉丸教授、大好きです。ショートショートって短いがゆえにテーマとして命を扱うことがとても難しいんですよね。あえてすごく軽く扱う方法もありますけど、今回のようにシリアスに書くというやり方でちゃんと書き切られたのは本当にすごいです。白濱:
<本来は遺伝子の乗り物でしかなかった我々の肉体に自我、つまり心が芽生えたからです>なんて一文はジョン・レノンの歌みたい。田丸:
蝉丸教授の講義を実際に夏の教室で受けているような臨場感もありました。ラストで読者に突きつけられるメッセージもよかったです。白濱:
この手のお話ってややもすると説教臭くなるじゃないですか。だけど、「セミな〜る」には全くそれがない。うまいですよね。人生を生き切った方の言葉のように深い。田丸:
著者の中乃森豊さんは、「父の化石頭」と「野次馬スター」で佳作を2回受賞されている方です。じゃあ、シリアス系でもう一作品。「炉話」という暖炉のお話があります。白濱:
はいはい。田丸:
お客さんのお話を薪にする暖炉が主人公なんですけど……。白濱:
擬人化が上手ですよね。実は僕もスピーカーとかを擬人化して考えることがあって。自分の作っている音をこいつはどういう気持ちで鳴らしているんだろう、とか(笑)。アニメや漫画でも擬人化ってすごくよく使われる手法じゃないですか。人は擬人化しがちなんですかね。田丸:
まさに擬人化はよく使われるからこその難しさがあるんですけど、この作品は本当にうまいと思います。白濱:
それにストーリーもすごく深い。暖炉が旦那様の思い出を振り返る場面では、走馬灯を見ているような気持ちになりました。田丸:
著者の眞山マサハルさんは、初めて書いた作品「思い出カジノ」で佳作を受賞された方なので、いまでもまだそんなにたくさんの作品を書いているわけではないと思うんですけど、すでに手練れの域ですね。白濱:
最後の文章もすごく素敵です。時が経つ儚さを感じました。田丸:
じわっと胸を締め付けられるものがありますね。ショートショートというと、軽快、軽妙洒脱な作品のイメージが先行しがちなんですけど、一方でこんな風に余韻に浸りたくなる作品もあって、その幅の広さがジャンルとしての醍醐味なんですよね。白濱:
たしかに。続いて、「ここは駅から徒歩で3分スキップで5分」は時間をスキップするお話でした。スキップを音楽のスキップやステップを踏むスキップで表現していた点がうまかったですね。そして、この作品も深かった。辛い時期や苦労の多い時期に、時間を飛ばしたいと願う気持ちは僕にもあります。ライブの前って、作り込みとリハーサルに1ヶ月半くらいかけるんですけど、毎日スタジオに篭りっきりで、考えることも作ることも多くて本当に大変なんです。そういうときに、メンバーの小森隼と、いまから初日のLIVEが終わったタイミングまで時間を飛ばせるとしたらいくらまで払えるかっていう話をよくしていて(笑)。それを思い出しましたね。ちなみに、けっこうな金額を払ってもいいなって結論で(笑)。田丸:
(笑)。わかります。ただ、時間を飛ばしてしまうことによって、なにかを失ってしまうのかもしれないという……。白濱:
そうなんですよね。これは考えさせられたなあ。あと、「カモメのリレー」。ショートショートのなかにさらにショートショートを感じる作品って珍しいなって思いました。田丸:
構造がおもしろいですよね。これもメッセージ性のあるお話ですけど、泣いたり叫んだりといった切実な感情が短い中でリレーされることによって増幅していきます。短いがゆえに、下手にエピソードを多くするとスカスカになってしまいますし、シーンを重ねていくことの必然性も必要なわけですけど、この作品は素晴らしかった。最後にふわあっと空高く放たれた景色が見えたような気がしました。白濱:
それぞれのエピソードもどこか希望の見える終わり方でいいですよね。田丸:
その先を感じさせてくれるという。あとは、「怪談箪笥」も面白かったです。白濱:
これを読んで思い出したんですけど、僕が短編に初めて触れたのは「怪談」なんですよね。小学校の図書館にちょっと怖い短編を集めた本があって。田丸:
へえ。白濱:
「怪談箪笥」は、タイトルを見た時、踊る方のダンスが絡んでくるんだろうなって予想してましたが、全然出てこなかったですけど(笑)。田丸:
(笑)。石原三日月さんは、「家の家出」「どっちつかズ」「メトロポリスの卵」の3作品で佳作を受賞されています。今回は怪談に挑戦ということで、作風がとにかく幅広くてすごい。以前、白濱さんが好きだとおっしゃっていた「上昇志向サーバー」も石原さんの作品でした。白濱:
たしかに僕はこの方の作品が好きですね。「怪談箪笥」では、箪笥の形がディテイルまで具体的に描写されていて想像も膨らみました。田丸:
素晴らしい筆力です。白濱:
「サマーカード」も好きでしたね。田丸:
「カモメのリレー」と同じ松野志部彦さんの作品です。白濱:
主人公と同じで僕も、夏休みの思い出の発表が嫌だったんです。小学生ながらマウント合戦みたいになる感じが。ディズニーランドに行ったお金持ちのクラスメイトをすごく羨ましがったり(笑)。だけど、この作品には救いがありましたね。主人公のひとりぼっちの夏休みがみんなから羨ましがられるという。田丸:
サマーカードという語感もすごくいいです。主人公が自分の経験に引け目を感じる場面も、ニュアンスが難しいところをうまく書いて成立させていました。事務局:それでは、そろそろお時間となりました。最後に応募者の方へのメッセージをお願いします。
白濱:
坊っちゃん文学賞のアンバサダーを続けさせてもらって今年で5年目になりますけど、この間、ファンレターを読んでいたら、「今年も坊っちゃん文学賞に作品を応募したいと思います」って書かれたものがあったんです。驚きましたし、僕の活動を見て新しいことに挑戦してくださっている方がいることに大きな刺激をもらいました。そして、そういう方を増やしていくことが僕の役割なんだろうなと改めて実感しました。だから、ショートショートを書くなんて自分には無理って思っている人ほど、なんでもいいから一回書いてチャンレンジしてほしいですね。入口が広いのがショートショートの良さだと思うので。ぜひともたくさんの方に応募してもらって、選ぶ側がうれしい悲鳴をあげるくらいたくさんの作品が届くといいなって思います。そして、僕自身が、今日みたいに色々な作品を読ませてもらうことで表現の幅が広がっているので、今後もみなさんの素敵な作品を読ませていただけることを願っています。田丸:
いつもお伝えしているとおり、やはりまずは気軽に楽しみながら応募していただきたいです。どうしても構えてしまうところはあるかもしれませんけど、坊っちゃん文学賞はお一人何作品でもご応募いただけますから、思いつきレベルでもまずは一作書いていただけたら嬉しいですね。なんとなく応募してみようという方からプロを目指している方まで、どなたでも大歓迎です。坊っちゃん文学賞は、ショートショートの頂を高める役割があるのと同時に裾野を広げることも目指しています。多様な方々が多様な取り組み方で坊っちゃん文学賞に集っていただけたらと願っています。(2023.7.18 )
1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部卒、同大学院工学系研究科修了。2011年、『物語のルミナリエ』に「桜」が掲載され作家デビュー。12年、樹立社ショートショートコンテストで「海酒」が最優秀賞受賞。「海酒」は、ピース・又吉直樹氏主演により短編映画化され、カンヌ国際映画祭などで上映された。坊っちゃん文学賞などにおいて審査員長を務め、また、全国各地でショートショートの書き方講座を開催するなど、現代ショートショートの旗手として幅広く活動している。書き方講座の内容は、2020年度から小学4年生の国語教科書(教育出版)に採用。2021年度からは中学1年生の国語教科書(教育出版)に小説作品が掲載。17年には400字作品の投稿サイト「ショートショートガーデン」を立ち上げ、さらなる普及に努めている。著書に『海色の壜』『おとぎカンパニー』など多数。メディア出演に「情熱大陸」「SWITCHインタビュー達人達」など多数。 <田丸雅智 公式サイト>
1993年8月4日生まれ、愛媛県松山市出身。2012年11月、GENERATIONS from EXILE TRIBE パフォーマーとしてメジャーデビュー。2014年4月にEXILE新パフォーマーに決定し、EXILEに加入。GENERATIONSのリーダーも務め、EXILE/PKCZRと兼任しながら活動している。2023年2月にはフィリピン観光大使に就任。また、俳優としての主な出演作にはドラマ「シュガーレス」、「GTO」、「小説王」、「M 愛すべき人がいて」、映画「ひるなかの流星」、「コンフィデンスマンJP プリンセス編」、「10万分の1」などにも出演。さらにDJ(楽曲制作)としても活動し、マルチに活動の場を拡げている。