第17回坊っちゃん文学賞の審査員長 田丸雅智氏とアンバサダーをつとめる白濱亜嵐氏。ともに松山市出身で6歳違いのお二人は、若くしてそれぞれの分野で大きくご活躍されています。そんなご両者に、故郷の思い出や魅力、そして、松山市が主催する坊っちゃん文学賞への思いについて語っていただきました。さらに、お二人の共作ショートショートの公開も!? 対談の模様は、前後編に分けてお届けします。
*本対談は、Zoomを使用してオンラインで実施しています。
事務局:前編では、お二人に故郷・松山市の思い出や松山がご自身に与えた影響についてじっくりと語っていただきました。後編では、松山市が主催する坊っちゃん文学賞を主題にお話しいただきたいと思います。坊っちゃん文学賞は、昨年度の第16回からショートショートの賞にリニューアルし大きく盛り上がりましたが、今年度も引き続き、田丸さんには審査員長、白濱さんにはアンバサダーをつとめていただいています。まずは、前回のご感想からお伺いできますでしょうか。
田丸:
第16回を振り返ると、応募の量、質ともに非常に素晴らしい結果だったと思います。とくに、「文学の入り口」という役割を掲げてショートショートの賞にリニューアルしたわけなので、そういう意味でも一定の効果は出たのかなと手応えを感じています。そして、それを地元松山から発信できたのは、僕としては非常に幸せでしたし感慨深かったです。先日、第16回の受賞者6名の受賞の言葉が公式サイトに掲載されました。僕はそれを読んで、本当に涙が出そうなほど感動したんです。大好きなショートショートを広めるために、これまで長年、いろいろな活動してきたなかで、自分として伝わってほしいと思っていたことがしっかり伝わっていたような気がして……もちろん、僕からの影響があってもなくてもいいんですけど、自分と通じ合うような受賞者の方の思いに触れて、これまでやってきたことが報われたように感じられて。松山からさらにショートショートを広げていきたいと改めて強く決意しました。白濱:
僕は、前回アンバサダーをつとめたことがきっかけとなって初めて、ショートショートにしっかりと触れさせていただきました。世の中で活字離れが叫ばれているなかで、僕自身も長い小説を読むのがそこまで得意な方ではなかったんですけど、ショートショートであれば、自分のようなタイプの方でも気軽に楽しく読めるのでいい入り口になると感じました。そして、今後の広がり方としては、映画化したり、オムニバス系の映像につなげられたらもっと大きく広がっていくのではないかとも思いました。あと僕は、授賞式に出席したときにお会いした受賞者のみなさんの嬉しそうな表情がいまでも忘れられないですね。事務局:ありがとうございます。坊っちゃん文学賞では、年5回程度、田丸さんに「坊っちゃん文学賞presents 誰でも書けるショートショート講座」を開いていただいています。小学校の教科書にも掲載されているこの講座は、その名通り、誰でもショートショートを書けるようになるワークショップなのですが、本日はぜひ白濱さんにもその前半部分を体験していただきたく……。
白濱:
ぜひぜひ! 田丸先生、よろしくお願いします!田丸:
よろしくお願いします! では、白濱さんにはまず、「不思議な言葉」を作っていただこうと思います。最初に、どんなものでもけっこうですから、名詞を5つほど挙げていただけますか? たとえば、「冷蔵庫」とか「傘」とか「太陽」とか。身の回りで目についたものでもなんでも大丈夫です。白濱:
わかりました! そうしたら、まず「掃除機」。あと、えーと「ドア」……こういう感じでなんでもいいんですか?田丸:
いいんです。あとはたとえば、好きなこととか。先ほど話題に上がった「歴史」とかもいかがでしょう?白濱:
はい、「歴史」も入れます。田丸:
あとは、お仕事にまつわることでもいいですよ。白濱:
じゃあ「ダンス」。そしてあともう一個は、そうだな……「お風呂」。田丸:
ありがとうございます。<「掃除機」「ドア」「歴史」「ダンス」「お風呂」>
この5つでばっちりです。では、続いては、この5つの言葉のなかから一つだけを選んで、その単語から連想される言葉を3つ挙げてください。たとえば「太陽」という言葉をあったとしたら、「発電につかえる」「熱い」「ポカポカする」といったように。もちろん、どういう風に発想いただいても大丈夫です。まずは5つの名詞からどの言葉を選びますか? 発想しやすいものがいいかもしれません。
白濱:
どれにしましょうかね……じゃあ、「お風呂」。田丸:
じゃあ、「お風呂」からイメージする言葉は?白濱:
うーん、「リラックス」、あと、「道後」。田丸:
ほうほう。あと一つどうですか?白濱:
あとは、自然に「友達」って言葉が浮かんできました。田丸:
おー! いいですね。<「リラックス」「道後」「友達」>
続いては、この3つの言葉と先ほど出していただいた名詞をがっちゃんこするんですけど、組み合わせ方をあべこべにします。つまり、先にいま思いついた3つの言葉のどれかを持ってきて、次に「お風呂」以外のさっき使わなかった名詞のどれかを選んで、その二つを組み合わせます。たとえば、さきほど僕が例に挙げたもので組み合わせてみると、「熱い冷蔵庫」とか、「ポカポカする傘」みたいに。なるべく、「それはありえないでしょう」っていう不思議な言葉の方がいいですね。
白濱:
まず、「リラックス」「道後」「友達」のどれかを先に置くってことですね。田丸:
ええ。言葉は柔軟に補ってもらって大丈夫ですよ。たとえば、「リラックスさせる」とか「リラックスする」とか。白濱:
じゃあ、「リラックスしなければならない」にします。これを「お風呂」以外の4つのワードのどれかと組み合わせるってことですね。どれにしよう……「リラックスしなければならないダンス」だとなんかちょっとありえそうだもんなあ。うーん。じゃあ「リラックスしなければいけない掃除機」。田丸:
おーいいですね! 普通はそんな掃除機あるわけないですもんね(笑)。その調子であともう一つくらいいかがですか? 別の組み合わせで。白濱:
せっかくなので「道後」を使ってみます……うん、でも難しいな。「道後」と「ダンス」と組み合わせたいんですよね。うーん、じゃあ「道後がゆえの」。「道後がゆえのダンス」。田丸:
面白いですね(笑)。ありがとうございます。じゃあせっかくなので、もう少し先のステップにも進んでみましょう。白濱:
ぜひ! よろしくお願いします。田丸:
この時点ですでに「リラックスしなければいけない掃除機」と「道後がゆえのダンス」という二つのアイデアの素ができているんですね。今回は、せっかくなので、「道後がゆえのダンス」を広げていきたいと思います。この言葉について、空想、妄想なんでもありだとして、どんなダンスだと思います?白濱:
えっと……「道後がゆえのダンス」は、まずはもちろん道後発祥のダンスで、なんだろう、お祭りチックで、どことなくリオのカーニバルに似ている(笑)。田丸:
おー! じゃあけっこう激しめですね(笑)。それって、踊っている人側にとってでも観ている人側にとってでもいいんですけど、なにか良いこと、メリットってあります?白濱:
間違いなく地域活性化にはつながりますよね。田丸:
なるほど!白濱:
しかも、国内だけでなく海外からも観光客が訪れるようになる。田丸:
どうしてだと思います?白濱:
リオのカーニバルと勘違いして道後に来ちゃう(笑)。田丸:
(笑)。あとそれ以外になにか特徴はありますか?白濱:
あとは……徳島の阿波踊りに対抗してできたのが、「道後がゆえのダンス」。田丸:
なるほど。会場はやっぱり道後温泉界隈ですかね?白濱:
そうですね。道後温泉周辺から街の中心部に抜けていく感じですね。田丸:
踊っている人はいっぱいいるんですかね?白濱:
めちゃくちゃいっぱい踊っていますね。田丸:
じゃあ逆に、「道後がゆえのダンス」について、悪いこと、デメリットってなにかあります?白濱:
うーん、難しいな……「道後がゆえのダンス」の悪いところ……うーん、えっと、あ! 「松山まつり」(実際に毎年松山で開催されている祭)のなかに「野球サンバ」ってあるじゃないですか。街中をサンバしながら歩くっていう。「道後がゆえのダンス」はそれにちょっと似ているから、「野球サンバ」の団体にライバル視されてしまう(笑)。田丸:
やっていることが近いんじゃないかと(笑)。白濱:
それで、その2団体が揉めることが悪いこと(笑)。田丸:
なるほど(笑)。じゃあ、これまで白濱さんに出していただいたアイデアを簡単にお話にしてみましょう。こんな風になるんじゃないでしょうか。徳島の阿波踊りに対抗して、道後をダンスで盛り上げようと、新しいダンスが考案された。道後温泉の周りから松山市中心部に向かって、まるでリオのカーニバルみたいにたくさんの人々が激しいダンスをしながらパレードする。海外からも大きく注目され、本物のリオのカーニバルと勘違いした人も含め、外国人観光客が大勢押し寄せた。にわかに活況を呈した松山。けれども、そこに待ったをかけたのが、「野球サンバ」のチームだった。自分たちに似ているのではないかということで、二つの団体は大揉めに揉めた。その様子は、外から見ると、まるでお祭り騒ぎのようだった。
(※上記は、田丸氏が即興で口述したものを書き起こしたものです)
白濱:
すごい! ちゃんとお話になっているし、面白い!田丸:
僕は白濱さんがおっしゃったことをただつなげただけですからね。自動的に言葉を組み合わせて空想を膨らませ、いいところ、悪いところを考えていくと、すごく簡単にお話ができてしまうんです。白濱:
たしかに。一瞬でできましたもんね。実は僕、この自粛期間中に在宅でできるリモートお芝居を作れないかなと思って、脚本を書いていたんです。それがなかなかうまくいかなくて挫折していたので、この後この方法論を使ってやり直してみようと思います!田丸:
それはぜひ!白濱:
やっぱりものを書くときって、なんか無意識のうちに難しく考え過ぎてしまっているのかもしれないですね。形式ばってしまって。いま田丸さんに教えてもらったやり方なら、それを壊せるような気がしました。しかも、このやり方は他の分野にも応用できそうだし。もっともっといろいろな人に知ってほしいですね。田丸:
この記事の読者の方にもぜひ取り組んでいただきたいですね。白濱:
すぐにできますからね。僕のファンの方や「私にはできない」って思い込んでしまっている方にこそチャレンジしてほしいと思いました。事務局:講座のワークシートは、田丸さんの公式サイトからダウンロード可能ですし、書籍化もされていますから、ぜひ多くの方に挑戦していただきたいですね。
田丸:
これを最初の一歩として、自分でもできるんだっていう気づきがあれば、続けて書いていけると思います。あと、僕が一番大事にしているのは、「楽しくやりましょう」ということ。そういう気持ちで取り組めば、どんどん上達していけるはずです。だからまずは、このやり方を試してみてほしいですね。そして、書けたらぜひ坊っちゃん文学賞に応募してほしいです。白濱:
そうですよね。田丸:
前回佳作に選ばれた「思い出カジノ」の眞山マサハルさんは、初めて書いた作品だったそうですからね。そう考えると、みなさんにチャンスがあると言えるでしょう。思いがけない才能や気づきによって作品が生まれて、あれよあれよと受賞してしまう可能性だってあるわけですから。自分でブレーキを踏んでほしくないですね。事務局:それでは最後にお二人から、今年度の第17回坊っちゃん文学賞に期待することをお話しください。
田丸:
やっぱりまずは書いてみていただきたいですね。創作というと、「自分には関係ない」とか「無理かも」と考えてしまいがちだと思うんですけど、一回気軽にやってみてほしいです。ショートショートは長編と違って、一話が本当に数時間で書けてしまいますから。そして、書けたらそれを継続してほしい。そのときに一番大事にしてほしいのが、先ほどと繰り返しになりますが、「楽しみながら書く」ということ。楽しみながらであれば、趣味として今後続けていくにしても、プロの作家を目指すにしても、続けることができて、その結果、実力を伸ばしていくことができると思います。なので、楽しみながらどんどん書いて、どんどん応募してほしいです。坊っちゃん文学賞は一人で何作応募しても大丈夫なので、たくさんのご応募をお待ちしています!白濱:
田丸さんのおっしゃるとおり僕も、まずは書いて応募してほしいなと思っています。本当に誰にでも可能性があると思いますし、自分が考えてもみなかったような才能に気づくことだってあるかもしれないので、積極的にチャレンジしていただきたい。僕自身も、前回をきっかけにショートショートを読むのがすごく好きになったので、ぜひ、今回はあなたの作品を読ませてください!事務局:ありがとうございました。
(2020.5.29 Zoomにて)
1987年、愛媛県松山市生まれ。松山東高等学校、東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。2011年、『物語のルミナリエ』に「桜」が掲載され作家デビュー。12年、樹立社ショートショートコンテストで「海酒」が最優秀賞受賞。「海酒」は、ピース・又吉直樹氏主演により短編映画化され、カンヌ国際映画祭などで上映された。坊っちゃん文学賞などにおいて審査員長を務め、また、全国各地でショートショートの書き方講座を開催するなど、現代ショートショートの旗手として幅広く活動している。書き方講座の内容は、2020年度から使用される小学4年生の国語教科書(教育出版)に採用。17年には400字作品の投稿サイト「ショートショートガーデン」を立ち上げ、さらなる普及に努めている。著書に『海色の壜』『おとぎカンパニー』など多数。メディア出演に情熱大陸、SWITCHインタビュー達人達など多数。<田丸雅智 公式サイト>
1993年8月4日生まれ、愛媛県松山市出身。GENERATIONS from EXILE TRIBEのパフォーマー。同グループでリーダーを務める傍ら、2014年4月にEXILE新メンバーとして加入。俳優としては映画『ひるなかの流星』『貴族降臨 -PRINCE OF LEGEND-』などに出演。また映画『コンフィデンスマンJP プリンセス編』『10万分の1』の公開が控えている。